設計コンセプト
出雲大社のお膝元、元々の街道沿いに建つ城壁つくりの旅館だった建物。
数年前から無人で傷みが進んでいたが当初施主は現状のままでの使用を望んだが、調査の結果床レベルが80mm程度狂っていたり、現行法では基礎工法、耐力壁等が大幅に不足していたり、地震、漏水、白蟻、腐食等が進んでおり現状での使用は不可能と判断した。「この宝物を残したい」という気持を施主と共有出来、改修計画が始まった。
コンセプトは「現況での再生」、歴史的な内外観を出来るだけ活かしながら減築と共にFMの手法を用い、土台や大引き、柱、梁は極力既存を再用し、天井を撤去し梁を見せるように改修を行った。足を延ばしながらゆっくり時間の流れを楽しめるやすらぎの空間をイメージした。
施主側からは、この建物の趣きや内外観、備品等出来るだけ残すこと、耐震及び安全(防犯)性の確保、ランニングコストがかからない設計、ユニバーサルデザインの採用等がリクエストされた。
建物の特徴
省エネルギー
- 壁に関しては旧部分は土壁の復旧採用、一部壁面断熱材仕様。
- 床下は全面床断熱材設置。
- 省エネ型エアコンの採用。
- 省エネ節水トイレの採用。
- 木製建具の一部に防寒しゃくりを設置。
- サーキュラファンによる空気循環、ペレットストーブ熱循環システム。
- ベース照明の大部分、外部照明をLEDで行った。
- 塞がっていた虫かご窓を開け採光を確保した。
省資源
- 旧家屋を再利用し解体、新築を選ばなかったこと。
- 一部の腐食部分を取り替えた以外は、構造金物補強、埋木、継木等で強度を確保し、防腐処理及び灰汁抜き、磨き、削り等で内外観を確保し採用を促した。取替廃材の一部を埋木や化粧材として再利用。
- 既存井戸を再利用し散水等に使用。
環境保全
- 不要の解体や処分を極力減らした。
- 不要の樹木以外は移植して植栽を残した。
- 残土の一部を盛り土として再利用し場外処分を減らした。
- 汚染防止2液シーリング材(ポリイソブチレン)の採用。
安全性・快適性
- キッチンパネル、フローリング、CFシート等掃除の手間が少なく安全な素材の採用。
- 外部LEDセンサー照明と連動照明を採用。
- 汚れ防止型衛生陶器(新設部分)の採用。
- 既存天井の一部を撤去し吹き抜け空間を新設。
- ベース照明レースウエー方式とし、増設やレイアウト変更、スポット追加等を容易にした。
耐久性・耐震性
- 家上げ時に土台上のレベルや倒れを是正の上、耐力壁等の増設、補強を実施。腐食、割れ等の部材を交換。
- エアコンの室外機をアンカー打ちの上、かさ上げ(積雪対策)
- 屋根防水にゴムアスを採用。
ユニバーサルデザイン
- 板の間には足を降ろせるスペースとテーブルのレイアウト変更、暖房プランを採用。
- 土足と上履きのトイレを設置し靴の履き替えの煩わしさを無くした。
ライフサイクルコスト
- 屋根は石州瓦(焼成温度が高く強固)とステンレス瓦棒、外装材料はモルタル漆喰と防火サイディング、支持材はSUS304製などメンテナンスのフリー又は少ない物を積極的に採用。
- 荒縄下地の漆喰の軒裏、垂木を、落下防止、長寿命化でリブラスモルタル下地に変更。